
こんにちは、菜園料理家の藤田承紀です。
今日は、うちのスパイス棚でいちばん減りが遅い瓶の話をします。クローブです。
減りが遅いのは、使っていないからではありません。1回に1〜2粒しか使わないからです。それでいて、その1〜2粒があるかないかで、料理の空気がまるごと変わる。そういう種類のスパイスです。
そもそもクローブって何なのか
クローブは、日本語で丁子(ちょうじ)。フトモモ科の木の花のつぼみを、咲く前に摘んで乾燥させたものです。
実でも種でも葉でもなく、つぼみ。だからあの形なんですね。小さな釘みたいな見た目をしていて、英語のcloveもラテン語の「釘(clavus)」が語源だと言われています。実際、皮をむいたオレンジにぶすぶす刺して香りの飾りにする使い方が昔からあるくらいで、あの形は覚えると忘れません。
香りは、力強くて、甘い。
この「甘い」がややこしいところで、砂糖の甘さとは全然別物です。舐めても甘くありません。鼻に抜けるときの印象が甘い、という意味の甘さ。シナモンの甘さがふわっと丸いとすれば、クローブの甘さはもっと芯が太くて、真っ直ぐ刺さってきます。
何がいいのか
一番の魅力は、圧倒的な効率の良さです。
スパイスには「たっぷり入れて土台をつくる係」と「ほんの少しで景色を変える係」があります。以前書いたスパイスカレーの三種の神器(ターメリック・コリアンダー・クミンシード)は前者で、小さじ単位で入れて味の骨格をつくる。クローブは完全に後者です。
▶ 前回の記事:スパイスカレーの三種の神器 https://note.com/fujitayoshiki/n/n6474391d80f8
100gの袋を買うと、けっこうな粒数が入っています。1回1〜2粒なら、どれだけ使っても当分なくなりません。スパイスは「揃えるとお金がかかる」と思われがちですが、この手の香りの強いものは一袋が本当に長持ちします。
もうひとつ、ホールで買えることが大事です。
クローブに限らず、スパイスの香りは挽いた瞬間から飛んでいきます。パウダーは便利ですが、開けた日から少しずつ弱っていく。ホールは香りの成分が内側に閉じ込められたままなので、同じ時間が経っても状態が保たれます。しかもクローブは煮込みにそのまま放り込む使い方が多いので、そもそも挽く必要がない。ホール一択で困らないスパイスです。
そして産地。これはマダガスカル産です。クローブの産地はいくつかありますが、マダガスカルは代表的な産地のひとつで、流通量も多く手に入れやすい。「まずクローブを1袋」という人が、選択で迷わなくていいところだと思います。
正直な弱点
はっきり書きます。クローブは、初心者が最初に買うスパイスではありません。
理由は、主張が強すぎるからです。
さっき「1〜2粒」と何度も書いたのは、それが本当に上限に近いからで、うっかり5粒、6粒と入れると、その料理は全部クローブの料理になります。玉ねぎをじっくり炒めた甘みも、トマトの酸味も、菜園で採ってきた野菜の風味も、全部その下に沈みます。
しかも入れすぎたときの香りが、料理として気持ちいい方向に行きません。クローブの主成分はオイゲノールという香気成分なんですが、これは歯科の材料にも使われるもので、濃くなるとあの「歯医者さんの匂い」に振れていきます。一度そうなると、もう戻せません。煮込みから粒を取り出しても、香りは液体に移ったあとです。
だから僕は、迷ったら入れないを選びます。足りなければ次に作るときに1粒増やせばいい。多すぎたときのリカバリーは存在しません。
もうひとつ小さいけれど大事な弱点。ホールのまま口に入ると、かなり強烈です。
煮込みに入れっぱなしにしていると、盛り付けのときに紛れ込むことがあります。知らずに噛むと、舌がしばらくしびれたようになる。お客さんに出す料理なら、仕上げの前に取り出しておくのが無難です。家で食べるときも、器によそう前に一度ざっと探すくらいでちょうどいいと思います。
僕の使い方
スパイスカレーでは、「2番目に揃えるスパイス」として使っています。三種の神器で土台をつくれるようになった人が、次に手を伸ばすと世界が広がる一本。玉ねぎを炒める段階のような、油と熱がある工程に一緒に入れて、香りを油に移すのが基本の使い方です。
そして、自家製コーラ。
これはクローブがないと始まりません。市販のコーラのあの複雑な香りは、シナモンやカルダモンや柑橘の皮と一緒に、クローブがいるから成立している香りです。作ってみると「あ、コーラってスパイスの飲み物だったんだ」と分かります。市販のものを飲み慣れている人ほど、その発見は大きいと思います。
あとはチャイ。カルダモン、シナモン、生姜と並べて、クローブを1〜2粒。牛乳でも豆乳でも、乳のコクにクローブの芯の太さがちょうど釣り合います。
それと、ヨーロッパ側の使い方も覚えておくと便利です。ブイヨンを引いたり煮込みを作ったりするときに、玉ねぎにクローブを1粒だけ刺して一緒に煮る「オニオン・ピケ」という古典的な手法があって、イタリアやフランスの厨房では基本のひとつです。カレーとはまったく別の料理なのに、ここでも量は1粒。しつこいようですが、そこが本当に大事なところなので。
こんな人におすすめ
・スパイスカレーの三種の神器を揃えて、次の一本を探している人
・自家製コーラやチャイを、粉ではなくホールのスパイスから作ってみたい人
・煮込み料理に「なんだか奥行きがない」と感じている人
逆に、これからスパイスを始める人は、先に三種の神器から揃えてください。クローブは土台の上に乗せる香りなので、乗せる土台がないと、ただ強いだけになります。
順番さえ守れば、これは本当に長く付き合える一袋です。
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