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「良い包丁は、良い仕事を運んでくる」——そう教えてくれたシェフの包丁は、全然切れなかった

※本記事にはアフィリエイトリンク(広告)を含みます。 

「Buon coltello porta buon lavoro.」 

——良い包丁は、良い仕事を運んできてくれる。 

イタリア修行時代、現地のシェフが教えてくれた言葉です。かっこいいでしょう。僕はこの言葉を、いまでも大切に心にしまっています。 

ちなみに、そう言った本人の包丁は、全然切れませんでした。 

こんにちは、菜園料理家の藤田承紀です。今日は僕の「研ぎ道具」を全部紹介する記事なんですが、その前に、僕がなぜ包丁を研ぐ人間になったのか——ちょっとだけ、昔話にお付き合いください。 

「歩いて、冷やして、治す」

包丁と砥石
『歩いて、冷やして治す』を信じて歩いたイタリア

もともと僕は、料理人ではなくダンサーでした。 

ところが怪我をしました。踊れない。困った。なんとか体を治そうといろいろ調べるうちに、food——食にたどり着き、そして出会ってしまったんです。「歩いて、冷やして、治す」というリハビリを勧める、ちょっと変わった先生に。 

処方箋が「歩け」。しかも僕はそれを信じて、イタリアまで歩きに行きました。 

いま考えても、だいぶおかしい。でも人生わからないもので、歩いた先のイタリアで現地の食に感動し、食べているうちに本当に体が治ってしまった。「食ってすごい」。それが僕の料理人生の、そもそもの始まりです。 

順番がおかしい男、厨房に立つ

食に人生を救われた僕は、勢いそのままイタリアのレストランに修行に入ります。 

ここで冷静になってほしいんですが、当時の僕は料理がそれほど上手じゃありません。普通は、日本で腕を磨いてから海を渡る。僕は、渡ってから磨こうとした。順番がおかしい。 

当然、最初はバカにされました。仲間外れにされることもありました。「申し訳ないなあ」と思いながら、それでも毎日働きました。そうしたら不思議なもので、少しずつ、少しずつ受け入れてもらえるようになって——最後には、家族のように接してくれるようになったんです。 

包丁と砥石
本当に、家族のように接してくれた

砥石がなくなるまで

働いていたのはミシュラン二つ星のレストラン。朝7時に出勤して、夜中の2時まで働く。帰ってからイタリア語の勉強。睡眠は……計算しないでください。休み時間ですらみんな必死に働いているような、ウルトラハードな厨房でした。 

包丁と砥石
必死になって早歩きして回った厨房。みんな、本当にできる奴らだった。

そんな修行も、もうすぐ終わるという頃。お世話になったみんなに、何か恩返しができないかと考えました。お金はない。イタリア語も完璧じゃない。僕にあるものは——日本から持ってきた砥石と、毎日自分の包丁を研ぎ続けた手だけ。 

そのレストランには、20〜30人の料理人がいました。あちらでは日本の包丁と砥石は、ちょっとした伝説の道具です。だから決めました。 

全員の包丁を、研いで回ろう。 

一本、また一本と、真剣に研ぎました。すると厨房に噂が流れ始めます。 

「あいつに包丁を預けると、魔法みたいに切れるようになるらしい」 

「俺のもやってくれ!」「俺のも!」 

気づけば、日本から持ってきた砥石は、すり減ってなくなりました。砥石って、なくなるんですよ。そして最終日、あの厨房の全シェフの包丁が、ピカピカに切れる状態で並んでいました。 

これが、僕が「研ぎって素晴らしい」と目覚めた原体験です。 

包丁と砥石
送り出しの日。焦げ目のついた手作りの卒業証書をもらった。

冒頭のシェフの話

なぜ僕がそこまで研ぎにこだわるのか。理由は単純で、研げなかった日は、てきめんに仕事が遅くなるからです。 

あの厨房では毎日自分の包丁を研いでいましたが、あまりの忙しさにどうしても研げない日がある。そういう日は、自分でも驚くほど手が進まない。「やっぱり研ぎってすごいな」と現地のシェフに話したとき、返ってきたのが冒頭のあの言葉です。 

「Buon coltello porta buon lavoro.(良い包丁は、良い仕事を運んできてくれる)」 

いい言葉です。額に入れて飾りたい。あなたの包丁は切れないのに。 

……まあ、つまりそういうことなんです。切れない包丁でも、ぼちぼち良い仕事はできる。彼が証明しています。だから難しく考えなくていい。でも、切れる包丁は間違いなく、もっと良い仕事を運んでくる。僕はそれを、この手で研いで確かめてきました。 

ここからは、そんな僕がいま家で使っている道具の話です。 

まず結論:1本だけ買うなら「#1000」

砥石には「番手」という数字があって、小さいほど荒く、大きいほど細かい。紙やすりと同じ理屈です。最初の1本は、迷わず中砥石の#1000。 

僕が使っているのはシャプトンの「刃の黒幕」シリーズです。イタリア時代は別の砥石を使っていたんですが、帰国後に「刃の黒幕はむちゃくちゃ研げる」という噂を聞いて試したら、噂どおりでした。気に入っているポイントは2つ。 

とにかくすぐに刃が立つ。 研ぎ時間が明らかに短い。 
砥石自体がほとんどすり減らない。 普通の砥石はすり減って凹むと途端に研げなくなるので、砥石のほうのメンテナンス(面直し)が頻繁に必要になります。刃の黒幕はそれが圧倒的に少ない。イタリアで砥石を使い果たした男が言うんだから、間違いありません。 

そしてオレンジ(#1000)の真骨頂は、「それで終わってもいいし、それで始まってもいい」という融通の利きやすさ。時間がないときはオレンジ1本で終わらせても、十分に刃が立ちます。 

▶ シャプトン 刃の黒幕 #1000 中砥 オレンジ:https://www.amazon.co.jp/dp/B001TPFT0G?tag=fujitayoshiki-22 

僕の砥石ラインナップは4枚

包丁と砥石
砥石たち
包丁と砥石
番手はケースにマジックで書く派です

#220 モス(荒砥) — 僕のルーティンの起点。刃こぼれの修正もこの子の仕事。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B002LW76OS?tag=fujitayoshiki-22 

#1000 オレンジ(中砥) — 主役。詳しくは上記。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B001TPFT0G?tag=fujitayoshiki-22 

#2000 グリーン(中仕上げ) — 普段のルーティンはここまで。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B002LW54RO?tag=fujitayoshiki-22 

#5000 エンジ(仕上げ砥) — 出番は、たまに来る「輝かせてやるか」の日だけ。ここまでやると、トマトが音もなく切れます。ちょっと怖いくらい切れます。
https://www.amazon.co.jp/dp/B001TPH8YG?tag=fujitayoshiki-22 

包丁と砥石
ひっさしぶりに出したら、かわいそうなことに、、、、
包丁と砥石
研いでいくと、、、
包丁と砥石
ここまでの輝きに!続きはまた今度

僕の普段のルーティンは、週1回か2週間に1回、#220→#1000→#2000。レストラン時代は朝から夜中まで包丁を酷使するので毎日研いでいましたが、家庭ならこの頻度で「いつでも気持ちよく切れる」を保てます。

砥石より大事かもしれない「面直し」

砥石は使うほど真ん中がへこみます。へこんだ砥石でいくら研いでも、刃はうまく研げません。だから砥石の面を平らに戻す「面直し」が必須。刃の黒幕はすり減りにくいとはいえゼロではないので、セットで持っておいてください。 

僕が使っているのは、溝入りタイプの面直し砥石。砥石に斜めにゴリゴリかけると、溝が削りカスを逃してくれる仕組みです。

ただ、正直に白状すると——刃の黒幕は硬いんです。硬くて減りにくいのは長所なんですが、いざ面直しをすると、面直し砥石のほうが負けて、なかなか完全な平面に戻ってくれない。これが目下の悩みでして、僕は今、プロの研ぎ師たちが定番にしているダイヤモンド面直しの「アトマ」を次に買うと決めています。ダイヤモンドは砥石より確実に硬いので、黒幕クラスの硬い砥石でもゴリゴリ削れる。買って使ったら、この記事に追記しますね。

包丁と砥石
面直し砥石2種

▶ ツボ万 アトマエコノミー 中目(僕が次に買うと決めているダイヤモンド面直し):https://www.amazon.co.jp/dp/B07DS4BLW6?tag=fujitayoshiki-22 
▶ エビ印 面直し砥石 溝入り(いま僕が使っているタイプ):https://www.amazon.co.jp/dp/B001NXSSXO?tag=fujitayoshiki-22 

研ぎを快適にする脇役たち

砥石台 — 僕はセットに付いてきた台を使っています。濡れタオルでも代用できますが、台があると高さが出て、研ぎやすさが変わります。シンクに渡すブリッジ型も人気です。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B08T22K6KJ?tag=fujitayoshiki-22 

トゲール(角度固定ガイド) — 「研ぐ角度が分からない」という初心者最大のつまずきを、物理で解決してくれる道具。まずはこれで角度の感覚を体に入れるのがおすすめ。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B07R76TJ61?tag=fujitayoshiki-22 

革砥(かわと) — 研ぎの最後に革でひと撫でして、刃先のカエリを取る道具。ここまでやると研ぎ場の空気が完全に職人です。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B58SGZKG?tag=fujitayoshiki-22 

ちなみに僕の基本の包丁は3本

包丁と砥石
一番上のパン切りは今日の記事とは関係ないんですが、家族なので

正広(マサヒロ)の筋引きとガラスキ。

お肉を学ばせていただいた、お肉屋さんの師匠から教えてもらった包丁です。よく切れて、研ぎやすくて、そして高くない。1万円でお釣りがくる。プロの道具こそ、コスパは正義です。 

(僕が使っているのは刃物専門店で買った「正広別作」ですが、Amazonなら同じ正広の「正広作(ローズ)」シリーズが手に入ります)

ここで少しだけ、包丁マニアな話をさせてください。

僕が愛用している「別作」は、お肉屋さんなどプロの現場向けの完全実用モデル。片刃寄りで少しクセがあるんですが、とにかくタフです。一方、今回リンクに貼った「正広作(ローズ)」は、柄が水に強く高級なローズウッド製。両刃(一般的な洋包丁の刃付け)なので、一般の料理好きの方でも扱いやすいバランスの良いモデルなんです。Amazonで買える手軽さもあって、皆さんにはこちらをおすすめします!

ただし、注意点がひとつ。正広の包丁は「鋼(はがね)」なので、洗ったあとに水気を拭かずに放置すると一晩でサビます。

だからこそ、「いざという時の肉・魚用」として正広を使い、毎日の普段使いには次に紹介する「タダフサ」をメインにするのが僕のリアルなスタイルです。 

筋引き(240mm):お肉を切る、筋を掃除する、長さを活かしてお刺身を引く。僕のは240mm。270mmもありますが、一般の方には長すぎると思うので240mmがおすすめ。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B004KUWY0U?tag=fujitayoshiki-22 

ガラスキ(180mm):本来は鶏をさばく包丁。なのに、お尻の背が高いから玉ねぎの千切りの切り込みが入れやすくて、先が尖っているから筋引きも、細かい切れ込みも、野菜のヘタ取りも種取りもできる。「無人島に1本持っていくなら」の包丁です。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B004KUUTWK?tag=fujitayoshiki-22 

タダフサの万能包丁(210mm牛刀):ちょっと家庭的な1本も欲しいなと思って買ったもの。焦げ茶の木の持ち手がとてもおしゃれ。

最大の特徴は、お手入れのしやすさ。正広がサビやすい「鋼」なのに対し、タダフサはサビにくい特殊合金(SLD鋼)を使っています。切れ味は鋼のように鋭いのに、ステンレス並みにサビにくいんです。「家庭で1本だけ選ぶなら?」と聞かれたら、僕は迷わずこれを答えます。 
https://www.amazon.co.jp/dp/B00C4B7GXM?tag=fujitayoshiki-22 

もっと深く知りたい人へ

▶ 『ムズかしい”技術”をはぶいた包丁研ぎのススメ』:https://www.amazon.co.jp/dp/4484202018?tag=fujitayoshiki-22 
▶ 『包丁入門: 研ぎと砥石の基本』:https://www.amazon.co.jp/dp/4388062030?tag=fujitayoshiki-22 

まとめ:あなたはどの構成?

これだけでOK(最小構成) :刃の黒幕#1000+面直し 
僕と同じルーティン :+#220、#2000 
「輝かせてやるか」構成 :+#5000、革砥 

おわりに

切れる包丁は、切れない包丁よりむしろ安全です。切れない包丁は無駄に力が入って、ガクンとなって指を切る。切れる包丁は、すっと入って、余計な力が要らない。そして、よく切れる方が料理は確実に美味しくなるし、なにより、テンションが上がる。 

それともうひとつ、これは20年研いできた僕からの、ちょっと不思議なおすすめなんですが—— 

シャッコ、シャッコと包丁を研いでいるとき、心がすごく落ち着くんです。研いでいるのは包丁なのに、自分自身も研ぎ澄まされていくような、ちょっとした瞑想の時間。週末の10分、包丁と一緒に自分も整えてみてください。 

良い包丁は、良い仕事を運んできてくれる。 

……あのシェフの包丁は切れなかったけど、あの言葉は本物だったと、いまでも思っています。

※本記事で紹介したのは、すべて僕が実際に購入して使っている道具です。Amazonのアソシエイトとして、藤田承紀は適格販売により収入を得ています。 

次回は「スパイスカレー三種の神器」 。僕がスパイス沼に落ちるきっかけをくれた、あるスパイス商人の話から始めます。お楽しみに。